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受かってしまえば文句はないだろう。
かまわず大学の医学部に願書を送り、受験し、合格した。
帝大の医学部だ、文句は言わせない。
父の任地へ宛てた合格を知らせる手紙を書いた。返事はなかった。
その代わり、伯父を通して下宿先の指示がきた。
おどろいた。
そこは父が東京で過ごす為に借りた、表参道沿いにあるコンクリート造りのアパートだったから。
ここは関東大震災直後に復興事業の一環で建てられ、当時としては間取りも室内の設備も、すべてが先鋭的で画期的な住環境だった。上野や虎ノ門など枢要を占める地が選ばれ、住人は社会的にも名誉な職責を担う者、大学教授や軍人、一流企業の重役などで占められていた。
憧れの新生活と謳われた一角の様子は何度も報道され、東京から離れた彼の郷里にも伝わっている。
そうか、父さんはそれなりの地位がある偉い人だったんだ。
父が著名人に名を連ねる資格がある人物だと気づかされ、誇りとは何かを考えさせられた。倫宏はちっとも自らを良く見せたり偉ぶるところがなかったからだ。
父親に案内されるがままに初めて向かった東京は青山。室内に足を踏み入れたアパートは最上階で、入れ替えたばかりだと言っても通じる畳の薫りがぷんと爽やかに彼の鼻孔をくすぐった。
「並木がみごとだろう」
窓を開けながら父親は言った。
「ここからのながめが気に入って借りたのだよ」
ほとんど住んでいないがね、と付け加えた。
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