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「言ったね」
「褒められたいと言った、今の僕ではだめだということなんだね」
「違うよ」
父はあっさりと返した。
「わからない」すねるように幸宏は視線を外す。
「今はわからなくてもいい。けれど、君は医者にはならないよ」
「父さんは、変だ」
「そうかね」
「そうだよ。普通は、親が医者で親族もみんなそうなら、後を継ぐのが宿命と言うものじゃないのかい? でも、うちは、誰も僕に医者になれとは言わない」
「宿命などと、軽々しく言ってはいかん」
口調は穏やかだったが厳然たる響きを持つ父に、息子は居住まいを正す。
そよとも風も吹かない昼下がり、親子はしばし動きを止めた。
それを破ったのは倫宏だった。
「君は明日の汽車で帰るんだったね」
「うん。夜だよ」
「昼まで時間があるな。なら、ババへ来るか」
「ババ?」
「明日、軍馬の教練がある。見学できるように話を通しておこう」
「そんなこと、できるの?」
「できるようにするから話を通すんだよ」
そこで父は振り返った。いつもの柔和な顔の父だった。
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