【2】少年期 

13/19
前へ
/19ページ
次へ
「言ったね」 「褒められたいと言った、今の僕ではだめだということなんだね」 「違うよ」 父はあっさりと返した。 「わからない」すねるように幸宏は視線を外す。 「今はわからなくてもいい。けれど、君は医者にはならないよ」 「父さんは、変だ」 「そうかね」 「そうだよ。普通は、親が医者で親族もみんなそうなら、後を継ぐのが宿命と言うものじゃないのかい? でも、うちは、誰も僕に医者になれとは言わない」 「宿命などと、軽々しく言ってはいかん」 口調は穏やかだったが厳然たる響きを持つ父に、息子は居住まいを正す。 そよとも風も吹かない昼下がり、親子はしばし動きを止めた。 それを破ったのは倫宏だった。 「君は明日の汽車で帰るんだったね」 「うん。夜だよ」 「昼まで時間があるな。なら、ババへ来るか」 「ババ?」 「明日、軍馬の教練がある。見学できるように話を通しておこう」 「そんなこと、できるの?」 「できるようにするから話を通すんだよ」 そこで父は振り返った。いつもの柔和な顔の父だった。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加