【2】少年期 

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「じゃあ、もうすぐ君と酒が酌み交わせるようになるのか、楽しみだなあ」 倫宏は紙巻き煙草に火をつけ、ふう、と煙を吐く。 「……今度はどこへ行くの」幸宏は聞く。 「さあ。直前になるまで知らされんからな」 「長くなるの」 「それもどうだろうな」 紫煙を目で追いながら、倫宏は言った。 「何、君が入学して勉学に悲鳴を上げているころには休暇がもらえるだろう。美味い酒を見つけておくから楽しみにしておけ」 父のみならず武の男達はうわばみで有名だった。一般人が泥酔する量を飲んでもけろりとしている。その父が用意する酒とは……どのくらいの分量になるんだろう。飲酒経験がない彼はげんなりした。 明けて翌日。 早朝にたたき起こされ、寝ぼけ眼で向かった先には軍馬の居並ぶ姿があった。 眠気が一気に吹き飛ぶ。 朝靄の中、馬の嘶く声と生物が放つ臭気にここが異世界なのだと知らされる。 指示されたところで様子を見守る彼は、父の姿に釘付けになった。 青毛のクシナダ号はサラブレッドのような美しさのかけらもなく、どちらかといえば農耕馬に近いどっしりとした馬体を持っていた。 馬はとても繊細な生き物だが、軍馬はその繊細さをそぎ落とした頑健な精神をたたき込まれる。砲火にさらされても動じず、人を平気で踏みつける。 「クシナダは特に気性が荒い。何度も耳をかじられて欠けた厩務員もいるくらいだ」 朝、馬場へ向かう道すがら父から話に聞いていたが、遠目にはとてもそうは思えなかった。愚鈍さが際だっていたからだ。
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