【2】少年期 

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幸宏には母の記憶があまりない。まだ赤子だった妹は尚更だった。 母のことで一番印象に残る面影は、知子に乳を含ませている姿だ。 白くお椀のように盛り上がった豊かな乳房に食らいつく赤子を見つめる横顔は慈愛に満ち、授乳させる姿がとても美しかった。 歳満ちてから父にそのことをぽつりと漏らしたら、驚いた顔で見返された。 知子とは年子に近い年齢差。彼女が生まれた頃は二歳に満たない歳だった幸宏が当時のことを事細かに覚えているはずはないと言うのだ。 他の母子の姿と取り替えて思い込んで勘違いしているのではないかと。君も男の子だね、女性に興味を持つ年頃になったのだねえ、と一笑に付された。そんなはずはない、と幸宏は言い張った。赤子は誰でも同じように見えるかもしれないが、たしかに妹だった、だから、あれは絶対に母だと。 信じてもらえなかった。 男子が女性の、特に豊かな体つきに興味を持つのはしごく自然なことだが、幸宏のそれは少し強すぎた。自然、目は女性の胸元へ行く。ほっそりした柳腰の女性より、たわわに実るイチジクのような豊かな胸を持つ女性が好きだった。顔より名前より胸の方を覚えていたくらいだ。これは授乳する女性の姿に強く惹かれたからだと幸宏は自分に言い訳していた。 だって……。あの丸みは慕わしいじゃないか、と。
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