【2】少年期 

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出る杭は打たれる。他者より目立つ存在は何かと生きにくい。そこに子供ならではのやっかみが混じると長くこじれる。また、男子の場合、気になる異性を苛めて気を惹こうとする心理は子供の頃は顕著だが、それを差し引いても兄として泣かせた相手を見逃せるはずがなかった。 幸宏は膝を抱えて泣く女の子の夢を何度も見た。女の子は間違いなく知子だった。 実際に布団を被って泣いている晩もあり、表には出さず心の内で悩んでいる時も、兄の夢に投影されるように妹は現れた。 兄は苛める相手が男子に限って、必ず二倍三倍返しで口先より手足で「目には目と歯を」という名目の仕返しをした。男相手だから年上でもためらわなかった。最初のうちはぼこぼこに打ち負かされ、妹と一緒に泣いて帰ってきた。 傷の手当てをしたのは従兄である彰宏(あきひろ)だ。「僕の一番最初の患者はユキ坊」と後々まで語り継がれる程で、彼の身体や顔からは生傷が絶えなかった。 やられたらやり返す。けど非力な頃はまったく効を奏さない。 「相手にすると負けるぞ、気にするな」と伯父に何度たしなめられても聞き届けない。 「自分のことならいい、妹を苛めるのは許せない」と鼻血を吹きながら叫んだ。 休暇で帰ってきていた父は息子の情けない武勇伝を聞き、「君らしい」と言って笑い、兄に向かって「庭の真ん中に鉄棒を建ててもいいですか」と聞いた。 毎日鍛錬して腕っ節を鍛えろというわけだ。
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