【2】少年期 

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けれど鉄棒相手の鍛錬は学校を修了してからも習慣として続いた。二十代も半ばをすぎた頃になっても懸垂や大車輪をするのは朝飯前、大学生? いや、高校生? と間違われる身のこなしを誇ることになった。 この技量を物語る一つの挿話がある。 戦争に突入して暗い話題や奥歯に物が挟まったような言い回しが増えた頃、友人たちは彼の運動能力を評して「まるで忍者だな、お前なら間諜くらいお手の物だろう」と言った。 「もしかしたら適性があるかもしれないね」と彼も冗談交じりに応じ、笑い合ってはいたが、父は陸軍軍医だった、その縁から話が伝わると本当に招集され、間諜として遣わされることになるかもしれない、と彼も半ば以上本気にした。が、結局、どこの機関や軍にも属さず、ただの与太話で終わったのだった。
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