第1章

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秋も深まってきたつくつく山。相も変わらず紅葉の赤色が栄えていて見る者の心を奪う。 そんな中、山に1軒しかない屋敷の中でいつもよりも忙しそうに仕事をする1人の少女がいた。 「うーん、ここにはやっぱり赤色の羽根がいいのかな?それとも見栄え的には金色かな…」 作りかけの着物を片手に悩む羽之。どうやら着物に施す羽根の刺繍の色で迷っているようだ。 「どうしたんじゃ?やけに迷っておるみたいじゃが…」 不意に部屋に入ってきた弥生が尋ねた。自分の部屋にいた弥生もいつも以上に忙しい羽之が気になって様子を見に来たようだ。 「ああ、弥生。実はこの間来た人たちに頼まれた着物があったでしょ?」 弥生に気付いた羽之が着物を持ったまま弥生に聞いた。 「うぬ、あの結婚を間近に控えたという"かっぷる"のことかの?」 「今の"カップル"の発音が何か変じゃなかった?…まあ、それは置いといて。その2人が結婚式で着る為の着物を作ってほしいって注文してきた訳なんだけど、何色の羽根にしようか迷ってたの」 「ふむ、男の人のは黒い着物、女の人のは白い着物か。まあ、よく見る伝統的な婚礼の装束じゃのお。これに合う羽根か…」 羽之は弥生と同様人間ではない。弥生は狐だが、羽之は鶴である。自らの羽根を特殊な染料で染め、その羽根を着物に付けることで色ごとに様々な効果がある。 例えば、青い羽根なら幸運を招き、緑の羽根なら癒しの効果があり、黄色い羽根なら、気分が晴れやかになりものの考え方もポジティブになるなどがある。 そして、今回羽之が悩んでいる赤色の羽根と金色の羽根にはそれぞれ、恋愛成就や末永い愛をもたらす、金運や今後の生活の安定などのご利益があるのだ。 「その"かっぷる"から色の指定はあったのかの?」 着物を眺めながら羽之に問う弥生。 「うーん、色ごとの説明はしたけど、特に指定はしてこなかったのよ」 「うーむ、確かにそれは困るのぉ。色のつり合いもあるしのぉ」 「そうそれ。結局、婚礼衣装に合うのは、赤か金だし、2人でお揃いの色って指定はあったから…」 「色はお任せでお揃いは希望、なのか…。何と難しい」 「「うーん…」」 腕を組みながら唸る2人。職人の業界は常に厳しいのである。 「…ん?そういえば、赤も金も使うというのはダメなのかのぉ?」 ふと弥生が聞いた。
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