六章

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聞いた事がない程、情けないトーンで薫さんが呟いた。 何となくそれが切なくて言葉を返す。 「冗談ですよ。昼間の運転とかプールとかで疲れてたんですよ。そのまま寝てください」 「ごめんね。えっと…」 何だか言葉を選ぶみたいに間が空いて、僕も何も言えずにじっとしていた。 サラッとした髪が僕の肩に触れる。細い腕が僕の鎖骨に回された。 恥ずかしい話だけれど、思いがけない事に身体が石みたいに固まってしまう。 でも、それも彼女の一言が聞こえる迄の短い間だった。 「こっち…来て…」
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