24人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
本当に吹き出しそうな勢いで薫さんが笑った。それから、自転車を押す僕の耳元で囁いた。
「私も淋しかったわ…」
その言葉で、僕の耳が真っ赤になる。誤魔化すみたいに、僕は汗をふき取る仕草をする。
彼女もそれに気づいていながら、からかう事も無く微笑んでいる。
鍵を開けて荷物を運び込む。彼女が入り口から数歩の場所で立ち止まった。
じっと椅子を見つめて、僕と小さな紙のバッグを見比べていた。
「私の席が盗られちゃったわ」
「うーん。それは大変ですね」
「そうね…開けても良いのかな?」
「勝手に座ってるんだから、きっと当然の権利ですよ」
「そうよねぇ」
そんな事を呟いて、あの椅子に座り膝にちょこんと紙バッグを乗せる。
僕を一度見て、嬉しそうに笑って中から箱を取りだした。
最初のコメントを投稿しよう!