八章

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本当に吹き出しそうな勢いで薫さんが笑った。それから、自転車を押す僕の耳元で囁いた。 「私も淋しかったわ…」 その言葉で、僕の耳が真っ赤になる。誤魔化すみたいに、僕は汗をふき取る仕草をする。 彼女もそれに気づいていながら、からかう事も無く微笑んでいる。 鍵を開けて荷物を運び込む。彼女が入り口から数歩の場所で立ち止まった。 じっと椅子を見つめて、僕と小さな紙のバッグを見比べていた。 「私の席が盗られちゃったわ」 「うーん。それは大変ですね」 「そうね…開けても良いのかな?」 「勝手に座ってるんだから、きっと当然の権利ですよ」 「そうよねぇ」 そんな事を呟いて、あの椅子に座り膝にちょこんと紙バッグを乗せる。 僕を一度見て、嬉しそうに笑って中から箱を取りだした。
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