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八章
八月の初めの週が終わり、必然的に僕が薫さんと過ごせる時間は少なくなっていた。
「ごめんね、明日戻るから」
そんな電話を貰った僕は、あの小さな駅で薫さんを待っていた。
別に彼女が変わるわけじゃなくて、僕ももちろん変わらないのだけれど少し緊張してしまう。
予定の到着時刻は聞いていたのだけれど、随分と早い時間に駅に着いてうろうろと過ごした。
時間を潰して、それこそ主人を待つ犬の気持ちを考えながら改札の前で彼女の姿を探した。
僕を見つけた彼女は微笑んで、手にいっぱいの紙袋を持ち上げる。
僕は笑いながら改札に歩きよって、彼女の荷物を受け取った。
「要らないって言ったのに。邪魔だったでしょ、荷物」
「そんな事ないわよ。なんだか、あれこれ買いたかったんだもん」
なんだか、その言い方が可愛くて昨日までの不安はどこにも無くなった。
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