九章

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僕が彼女と手を繋いでいるのを見て、公平と美紀も同じように手を繋いだ。 きっと普段はそうしているのだろうけれど、僕の前ではしなさそうだった。 「愉しかったわ。またね、公平君美紀ちゃん…クリスマスには会いに来るからね」 「薫さん。それ隆に言ってやって下さいよ」 公平が僕の顔を見て嬉しそうに笑った。美紀も口笛でも吹きそうな風に僕をひやかした。 駅前の自転車置き場まで四人で並んで歩く。美紀は薫さんの胸元に下がるネックレスに触れて薫さんに何か耳打ちをしていた。 愉しそうに二人で笑う姿がずっと続けば良いなと、そんな事ばかり考えていた。 並んで自転車でこの道を走るのはもう何度もないだろう。 夏の夜の風も、昼間を忘れられないアスファルトから立ち登る熱気も、耳を澄まさないと聞こえない波の音も… 僕は大切に覚えておこうと決めたんだ。
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