九章

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一日中かけて彼女を描いた。昼食も二人でベッドの上で食べる。 日が落ちる頃、漸く僕らは服を着て街へ食事に出かけた。 この夏は僕にとって初めてだらけの夏だ。 こんな風に自然に手を繋ぐ事も、誰かを愛おしいと感じる事も、性欲と愛情は繋がっているのだと云う事も… 何もかも彼女が僕に教えてくれた事なのだ。 今年の夏は、いつもより暑かった。それでも僕には不快な暑さじゃなく、どこか愉快な気分で過ごせたのは彼女のせいだ。 「薫さん…なんだか幸せな気分だ」 少し涼しげな風が波打ち際に流れている。サンダルで砂浜を歩きながら言ってみる。 「そうねぇ。こんなに愉しい夏は初めてだったかも」 繋いだ手にきゅっと力が入れられた。僕も同じ様に握り返した。 「来年もこんな風に過ごせるかな?」 薫さんが立ち止って堤防の向こうを振り返った。
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