九章

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気がつけばアパートを飛び出して… 薫さんのマウンテンバイクに乗り込んでアトリエへ向かっていた。 殆ど変わらない外観に、真新しいネオンサインが目に入る。 店の前に止まった工務店の軽トラックと、中で作業する職人さんの姿が見えた。 もう、この場所は僕たちのアトリエじゃないのだと思い知らされた。 夏の思い出が… あれ程に鮮やかに覚えていた薫さんの姿が… まるで古い写真みたいに、セピア色に変色してゆく。 僕の胸から消え去らないで…色彩だけが褪せてゆく。 堪らない切なさが、僕の胸をぎゅうぎゅうと押しつぶし まるでポンプで押されたみたいに涙が流れてきた。 馬鹿げてる こんなの馬鹿げてる…
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