九章

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もう自転車を漕ぐ気力も失せて、薫さんのマウンテンバイクを押して歩く。 あれ程忘れないと思った堤防から見える景色も、風も…何もかもが嫌になった。 たかがふられただけなのだ…そんな風に割り切れる様な夏じゃない。 「何だよ…これ… 何なんだよ!どうしてなんだよ!」 馬鹿みたいに大きな声で叫んだって、何も変わらないんだ。 涙と鼻水でぐしゃぐしゃで…それでも、のそのそと部屋に辿り着く。 膝を抱えてベッドにもたれかかる。 この部屋も、あの店も、キャンパスも… 僕のテリトリーには、薫さんの欠片が散らばって何処にも居場所がないんだ。 酷いよ…薫さん どうしたって、僕は貴女を憎めないよ。 どうして貴女は、僕の目の前で微笑んでいるのだろう。 僕がこの手でキャンバスに閉じ込めた貴女は、本当に嘘なの?
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