九章

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いつから食べていなかったのだろう。 目の前に公平が弁当屋で買い込んだおかずを並べる。 「こんなに食べられないよ。公平のする事ってこれだから」 無理に笑いながらそんな風に言うけれど、公平も無理に笑ってくれている。 美紀だけが俯いて公平の横で座りこんでいた。 どうして美紀が此処まで落ち込んでいるのか、僕には理解できなかった。 それでも、信頼を裏切られた悔しさなのだろうと思った。 「とにかく食えよ。腹が減ってるとロクな事考えないからな」 食欲は無かったけれど、親友の優しい押し付けに逆らうわけにはいかない。 箸を伸ばして、冷たくなっているから揚げを口に運ぶ。 公平は、もっと食べろと云う感じで僕の方へ容赦なく弁当を押し付ける。 公平の優しさに感化されたのか、現実の悲しさがぶり返したのか… もうこれ以上出ないだろうと思えた涙が流れる。 一瞬、顔を上げた美紀と目が合い。美紀の唇が開きかけて閉じた。 何か言いたげな美紀を追求する気力は無かった。
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