九章

5/34
前へ
/34ページ
次へ
残酷だけれど、当然の様に一日が過ぎて行く。 憂鬱な気持ちを隠して、出来るだけ笑いながら薫さんと話す。 東京の住所をメモしたり、電車の乗り換えを聞かせてくれたり… 出入りしている出版社の名前とか、カヴァーを描いた作家さんの事とか… きっと僕に気を遣っていて、そんな向うでの自分の生活を彼女が聞かせてくれる。 僕はその話しに相槌をうち、少しでも距離が縮まる様に聞いた。 それで何かが変わるわけでもないけれど、そんな気持ちが嬉しくて切なかった。 「ねえ隆くん、帰る前に美紀ちゃん達にも会いたいな」 「そうですね。連絡しましょうか?」 言われてみればその通りだ。残された時間は少ないけれど、公平や美紀がいなければこんな風になっていないのだ。 薫さんが帰ってしまう二日前の夜、四人で食事をしようと決めた。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加