九章

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「帰っちゃうんですね…薫さん」 僕の知らない間に美紀はメールで随分やり取りしていたみたいだ。 僕のバイトの時にも一緒に買い物したりして、色々僕の知らない会話もしてたらしい。 今にも泣き出しそう顔の美紀が、どうしてか羨ましい気もしてしまう。 「寂しいだろ、隆ちゃん」 公平はからかうみたいな口調で言うけれど、美紀に釣られてなのか寂しそうだった。 「そうだね…やっぱり寂しいよ」 「ねえ、また遊びに来るし…しんみりするのはやめようよ」 そんな事を言う薫さんだって、無理に笑っているのがわかってしまう。 「とりあえず乾杯しようよ」 「だなぁ…」 公平は夏の間に二十歳になった。堂々と生のジョッキを掲げている。 僕と美紀はコーラを持ち上げた。薫さんはもちろんビールのジョッキだ。 「ねえ、何に乾杯するの?」 美紀が僕に問いかける。 「そうだなぁ…僕たちの夏に」 「うわっ!…隆ちゃん格好つけすぎ」
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