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「参ったな…」
僕はその場にへたり込みそうだった。
あの日、僕の中から褪せてしまった色彩がまるで目の前にあるみたいに蘇る。
夏の暑さも、波打ち際の微かな音も、薫さんの笑顔も…
柔らかく薄い唇も、滑らかな薫さんの曲線も…
失った色彩とともに、僕の指や身体が感触まで思い出す。
もう、二度と触れる事の出来ない薫さんは…
僕がキャンバスに閉じ込めたままだった。
「大丈夫か?隆…」
公平が寂しそうに、でも美紀と同じ様にほっとした表情で僕に言う。
「うん…公平もありがとうね」
「あー悪いな隆。申し訳ないけど、やっと美紀と結婚出来る気がした」
「何だよ、それ。教会でそんな格好して言う台詞じゃないよ」
「だよな…でも、そんな気分なんだ」
美紀も少し微笑んで頷いていた。
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