44人が本棚に入れています
本棚に追加
十年の歳月は、僕を大人にするのに充分な時間だった。
僕は彼女の年齢を追い越して、幾人かの女性と恋におちて別れて…
あの頃には、どうしても口に出来なかった“愛してる”と云う言葉も意味もわかる様になった。
青臭く感情だけを薫さんにぶつけていた僕。
きっと貴女は、そんな僕が壊れてしまう事を心配したのだろう。
「なあ、隆。本当に今日帰るのか?一泊ぐらい出来ないのかよ」
「また来るよ。仕事立て込んでてさ」
「売れっ子だもんね。隆くん」
「なんとか食ってるだけだよ」
「そうか、仕方ないな」
公平が笑いながら僕に右手を差し出した。
照れながら、僕も右手で握手する。美紀も同じ様に手を出した。
「幸せにな。ありがとうな、公平。美紀ちゃん」
「隆くんもね。幸せになってね…」
幸せそうな二人を見ながら、一人で駅へ向かう。
まだ、電車の時間には余裕があった。
最初のコメントを投稿しよう!