5657人が本棚に入れています
本棚に追加
けど、私は何も言えなくて
ただ、だまってその場に立ちつくす
「鍵」
突然、いつもの調子でカズくんがそう言った
私は返事が出来なくて
ここで、応じてしまった先の事がまだ考えられなくて
「なぁ」
私が沈黙をしていたその瞬間
カズくんは、私の鞄に手をかけた
つい、反動で鞄にかけた手に力を込めてそれを制止した
「いいから」
「……だ、ダメ」
顔を左右に小さく振って、私は後ずさる
するとカズくんはそのまんま私ごと抱き締めた
「いーから、もう。騙されねーから」
苦しい
もう、わからない
なにが、正しいのか
私が迷ったその瞬間。カズくんは、しゅっ!っと取り上げたバッグから鍵を抜き取った
「やっ――待って」
「待たない」
「――イチさ……」
そう、言いかけたと同時に。
私の身体が宙に浮いた
「お、結構な重量」
「――ひっど――」
「俺が背負う、二人分の重さ
軽いわけねーだろ、って意味」
最初のコメントを投稿しよう!