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真綿のような白雪が積もっていた。クリスマスの今日に相応しい。
だが、その下にくしくも隠されてしまった悲劇がある。
「ダッシャー 、ダンサー 、プランサー 、ヴィクセン 、ダンナー、ブリッツェン 、キューピッド 、コメット……ルドルフ」
九頭のトナカイの名が告げられる。
呟いたのは彼。深紅の服、白いひげの老体。
プレゼントもソリもトナカイをも失った老人は、黙祷を捧げるようにうつむき去ってゆく。
壊れたように歩く彼は、白く殺伐とした無音の世界にて己の心のよりどころを探していた。
それは使命。
それは存在理由。
それを求める彼はふとした拍子に福音を耳にし、立ち止まっていた。
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