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亡霊のように虚ろな瞳に映るのは一軒の家。
視線の先には、ピアノの鍵盤を弾きながら歌うパジャマ姿の幼女。まだ小学校に上がる前の年頃のようだ。
その娘の声は天使の歌声のように美しく、心に響く。
鍵盤の上を小さな指が流れるように動いていた。
だが、声と音がそろわない。地獄の旋律を生み出しているかのように幼女の顔はゆがんでいた。
目が窓の外に向けられていた。彼女の歌が止まる。
「サンタさん。私はプレゼントなんて欲しくない。今、心の底から欲しいと願うのは音だけ。私に音をください……事故に巻き込まれてから聴こえなくなったの」
華美なる声が老人の中に響いてくる。
それは己の空虚な心を埋めるもの。
それでも最後の理性を振り絞り、サンタと呼ばれた老人は目が合うと同時に首を振る。
絶望に満ちた顔で、幼女は頭に貼られているガーゼをかきむしっていた。
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