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「……アゲハさんは……優しかった。それに、強かった。アゲハさんが悲しんで泣いていたところは見なかった」
モズはへぇ、と気の無い返事をした。
「意外ね。てっきり、めそめそしながら日々を生きてたのかと思ってたわ」
「……アゲハさんは弱くなかった。体は丈夫じゃなかったけど」
アゲハを庇うようにアラトは言い返した。
「体が弱いのはあたしも同じよ。これはトクサの実験に参加した結果だから」
「実験?」
「不老の実験よ。あんた、聞いてなかったの?聞いてなかったとしても変だと気付いたでしょ?アゲハもあたしも年を取るのが遅いの。この若さを長く保ち続けられるのよ」
モズはテーブルの上に重ねられた自分の両手をうっとりした目で見つめ、甲を指でさすった。
「……知らなかった」
突然明らかになった事実に驚き、アラトは改めてモズの顔をまじまじと見つめた。
「……トクサはあたし達が研究所で働く前に、もう不老の研究は大体完成させていたみたいよ。もうトクサ自身の体でも試していた。トクサは実験を重ねて完成させた薬であたしとアゲハを実験体にした。まあ、無理やりだけどね。骨髄に薬を混ぜるの。何人か失敗していたみたいだけど、あたし達の実験は何事もなく成功した。
ただ、この不老の薬には、欠陥があった。体が病弱になるって欠陥がね。まあ、日常生活を普通に送っていく上では、どうってことはないけど、持久力は格段に落ちたわ。それから、寿命が短い可能性はあるわね」
モズは顔の前に落ちてきた長い前髪を片手で掻き上げた。
「けど、トクサの研究の手伝いをしていて、唯一良かったことだとあたしは思ってる。この見た目が維持できるんだもの。こんな夢みたいなことないわ。それで、あたしはこの仕事がうまくいってるんだし」
モズは自信に満ちた笑みをアラトに向けた。対照的にアラトは硬い表情でモズを見返した。
「……アゲハさんは実験のこと、どう思ってたんだ?」
「そりゃあショックを受けてたわね。あらかじめ教えられてもいなかったし、知らない間に終わってたんだし。研究所を出ようなんて言い出したのも、その実験がきっかけね」
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