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「これから主役のマルク像が来るのよ。もう少し待って」
駄々っ子を諭すような声音でそう言われた男は、一つ息をついて恋人から離れ――間際に囁いた。
「ちょっと、その辺散歩」
尿意を催していた。
宿を出る前に飲んだビールのせいだ。
この村の建物はほとんどが黒々とし、光沢を帯びている。煉瓦ではなく石を積んで造っているらしい。
ジーンズのポケットに両手を突っ込んだ格好で街灯が照らす史的情緒漂う景観をざっと眺めつつ、男は通りからさほど遠くない路地裏で足を緩める。
「……?」
微かな、石畳を鳴らした足音。
何かしらの気配を感じて振り向き、そのまま数秒待つが、人影は現れない。
周りの家々を見上げる。
窓に明かりは灯っているが路上に生活の音は漏れてこない。
近所総出で祭りに参加しているのだろう。
気のせいか――と、辺りに誰も居ないのを確かめてから壁に向いて立ち、ジッパーに指を掛けた、その時。
「!!」
激しい痛みとともに全身の筋肉が強張った。
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