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「ごめんなさい。暗くなってしまったわ」
言われて外を見れば、雨雲の去った空は夕暮れ色だった。
そんなに長居していたのかと驚く。
何を話したか覚えていないが、他愛のない話ばかりだったような気がする。
礼を言って出ようとすると、先にドアを開けたエミリーが、緑の敷き詰められた庭の正面を指した。
薄暮のなか、つるバラの絡むアーチが見える。
「まっすぐ出れば、きっと知っている道よ」
その向こうは夕暮れに沈んで見えないのだが、来た道と似た路地のようだ。
バラの門をくぐりかけたところで、声がかかった。
「忘れ物」
渡されたのは、来るときに持っていた買い物袋だ。白いビニール袋と重さが、何だか現実を思い出させる。自然、苦い顔になってしまった。
それをのぞき込んだエミリーが、小首を傾げて笑う。
「やっぱり、道までお見送りするわ」
言って軽快にアーチをくぐって行く。
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