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「まあ。良いお花」
聞き覚えのある声に目を向ければ、橋の上に居たのはあの女の子だった。今日は髪をおろしていて、緩く波打つ金髪が肩や背中を包んでいる。
向かいに居る男は、社会人でも生徒でも無いようだ。あの独特の雰囲気は大学生だろう。顔立ちは整っていて、身なりは今風の若者である。
女の子が微笑んだ。
「薫子さんに、宜しく言っておいてね」
行き交う車の音で聞き取りづらいが、歩道の端で、談笑しているところのようだ。生け花にでも使いそうな花や枝の束を手にしている。
女の子の笑顔に、男は肩をすくめたようだった。
「妹に言っとく。こんな可愛……小さな友達が居たなんて知らなかったって」
「そうね。千秋さんは初めましてなのに、おつかいに使ってしまってごめんなさい」
「うわ。エミリーちゃんてほんと礼儀正しいな。外国の子ってそういうもんなの?」
「そう? わたしは教わった通りに話すだけよ?」
男と同意見だが、口調は大人びているというのが正しいと思う。しかしにこりと笑う様は、見た目相応で可愛らしい。
「でも薫子さん程ではないわ」
「あれは箱入り娘の見本みたいな奴だから」
笑いながら男は携帯電話を取り出し、お花近づけて、と言ったかと思うと、そのまま女の子を撮影したようだった。
「証拠写真ゲット~」
「あらメールするの? 薫子さん、携帯使えたかしら」
「まさか。帰って見せる」
じゃあねと二人は別れ、男は川の向こうへ。女の子は大通りの方へ歩いて行く。
平日の午前中だ。
人通りもまばらな時間帯、一人歩いて行く。
それを目で追っていて、好奇心にかられた。一体あの子は何をしているのだろうか。
女の子が視界から消えたところで、辺りに誰も居ないのを確認してから土手を駈けあがった。
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