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すぐに、スーパーの向こうの交差点で信号待ちをしている背中を見つけた。
少し手前で足を止める。
鼻歌交じりでご機嫌らしい女の子は、信号が変わってすぐに歩きだした。そのまま少し進んで、水路沿いの遊歩道に入る。
植栽に咲く花や街路樹を眺めて歩く。そのさまはまるで散歩で、距離をとっているとはいえ、後を付いて歩く方が不審に見られそうだ。
光に透ける髪を、ふわりふわりと風にそよがせて歩いていく。
花の束を後ろ手に持って、時々それが地面に着かないように動かしてもいる。
それは絵本の中にでも出てきそうな、小さなお姫様のようで、ついつい見入ってしまう。
行くうちに、数日前に子供の手当てをしていた公園が見えてきた。
生け垣の陰で、彼女がふと足を止める。
「あら、さとる君」
公園から出てきた男にぶつかられかけたようだ。またも大学生風だが、今度はいささかあか抜けない風体だ。
男はたたらを踏んだが、さして驚いた様子も無く、すぐに親しげな笑顔を見せた。
「っと、エミリー。花束なんか持って、これから出かけるの?」
「いいえ、帰るところよ。良いお花をいただいたから、生け花の復習」
「渋いねぇ。じゃあ送ろうか」
「あらあなた、わたしのおうちを知っていたかしら?」
「うん? 君に付いていけば知れるよ」
「まぁ。ストーカーさんだったのね」
「酷いなぁ」
ほのぼのとした、息のあった掛け合いと、交わされる笑み。
間近に見てもそれは親密そうで、歩く速度を変えられないまま、通り過ぎて次の角を曲がった。
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