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急な雨に、近くの軒下へ駆け込んだ。
少し大きな喫茶店の軒先。服や頭の水滴を払っていると、コーヒーの良い香りが漂ってくる。買い物袋を下ろして空を仰いでみるがまだ暗く、雨は止みそうにない。
走って帰るには降りすぎていて、どうしたものかと雨だれを眺めていると、店の扉が開いた。
あの子だ。
エミリーと呼ばれていたのを思い出す。
子供の手には大きめな包みを抱えて出て来ると、空を見上げて、まあ、と呟いた。傘も持っていないようだし、どうするのだろうか。
エミリーはそのまま数歩歩き、不意にこちらを向いた。目が合ってしまう。
「こんにちは。あなたも雨宿り?」
警戒した様子も無く話しかけられ、驚く一方、何故かこちらが気まずい。
「あら人違いかしら? 近頃よく見かけるお顔みたいなんだけれど」
気付かれていた。
後ろめたさか、ざっと背中に鳥肌が立つ。しかしエミリーは嬉しそうに笑った。
「ふふ。当たってたみたい。わたし、ひとの顔を覚えるの、得意なの」
言いながら近付いてきた。
動揺するところへ、ふわりとコーヒーと甘いクリームが香る。今日もあの幸せそうな顔で、ケーキセットでも食べてきたのか。
「あのね、雨に濡れないでおうちまで行ける抜け道、知ってるの。雨が止むまで、ご招待してもいいかしら?」
……何だって?
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