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「ただいまー」
「おかえりー……ってここはお前の家じゃねえ」
仕事で思い切り落ち込んだこの日が聡介の休日だったことは不幸中の幸いだった。
自宅に戻って落ちた気持ちを引きずったまま彼からの電話を待つよりは、こうして会いに来てすぐに慰めてもらった方が効率がいい。
「今日また先輩に怒られたー」
「莉乃がくだらない失敗をするからだろ」
「何よ、慰めてくれないの?」
「お前は甘やかすとどこまでもつけあがる」
言葉では突き放しながらもすぐに頭を撫でて、私を抱きしめてくれる聡介は今も優しくて、頼りがいがあって、文句のつけようのない恋人だと思う。
まるでドラマみたいな始まり方をした私たちは、周りの友人たちからすぐに別れるだろうと思われていた。
『よくよく考えてみたら、あの時莉乃って外崎にナンパされただけだったんじゃないの?
それをまあ、あっさりゲレンデマジックに騙されちゃってさ。
相手のことをよく知りもしないで始まった恋なんて、雪が溶けるころには終わってるわ』
あの時、私を救い出して連れ去ってくれた聡介に一番黄色い歓声を浴びせていたはずの親友の理香子がそう言い放った時は、怒ってもいいはずだったのに妙に納得してしまった。
確かにそうだ。ほぼ初対面のはずだった私たちがあんなきっかけで付き合い始めてうまくいくはずがない。
自分でもそう思っていたのに、あれから4年が過ぎた今も私たちは恋人同士のままでいる。
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