第1章

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「後悔……なんて、してる目ではありませんね」 「コウカイ?なんだそれ、食えるのか?」 「食ったら吐きだしそうな味のする、苦い感情ですよ」 くだらない話をニ・三挟み、静かに笑う二人。 「正直のところ、五年前私と彼は困っていたんです」 「やめろよ。死亡フラグっぽく聞こえるぞ」 「フラグは、フラグだと認識した瞬間崩れ去るものですよ。覚えておきなさい」 「俺には無縁の知識だな」 「まったく…。相変わらず、話を脱線させる才能だけは有りますね」 「相変わらず、無駄に前置きが長いアンタの喋り方も健在だな」 一瞬二人の間に剣呑とした空気が漂ったが、男が鼻でその空気を笑い飛ばした。 「今でも、俺の案は笑い話だと吐き捨てるか?」 「吐き捨てることが出来れば良いのですが…。なにぶん、もう望みがそれしかなくなってしまいました。ならば、その到底正気とは思えない貴方の案に縋りたくもなりますよ」 「……何があった」 朝霧の答えに、男の眉が寄る。 「天界の動向が思わしくありません。…もう、"答えを待つ"なんて悠長な事は言ってられなくなったんですよ。人間の進化の為なら何世紀といった時間を待ち続けた神にしては、かなりの即決です」 「……俺が呼び戻されるのはそれが関係してるのか…」 「えぇ。彼も内心焦ってる事でしょう。こちらの準備はまだ十分とは言えませんし、何より今まで這わせてきた安全策を全て壊されたわけですから」 「奴なりに、一番血が流れなくていい道を模索したんだろうが…。そう上手く事は運ばないわな」 「やれますか?」 朝霧の言葉に、男はしばしの沈黙を返した。 思考を巡らせるように目を瞑り首を傾けたが、肩をすくめ力なく笑う。 「最初から俺はその為に準備をしてきたんだ。俺が別行動を取る事は、お前たちだって了承したことだろう?」 「それは…まぁ、そうですが…」 「だが同時に、覚悟しなきゃならねぇ。はっきり言って、俺のこの案が実行に移されるってことは、それだけ今の状況が歓迎できない程切羽詰ってるってことだ。なら当然、俺が失敗すれば―――」 「"観えない"んですか?」 男の発現を遮る朝霧の声。 しかしその声には、多少驚きが混ざっていた。 「あぁ、真暗だ…。成功するか否か、それすらも不明。前例なんか当然ありゃしねぇ。言葉通り、未知への挑戦だよ、これは」 片手をひらひらと漂わせている男。
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