0人が本棚に入れています
本棚に追加
5月。
しかも、高校三年生の5月。
高校三年生にとって今後の進路を考える上でとても重要になってくる春、そんな5月。
俺は今、クラスメイト(女子)の住まいを訪れていた。
今は学校帰りだ。今日は部活も休んでここを訪れたので、まだそんなに遅い時間ではない。
5月ともなると日が落ちるのも大分遅くなり、まだまだ近くの公園からは小学生の楽しそうな遊び声が耳に届いてくる。
暑くもなく寒くもなく、風も柔らかく心地好い。丁度過ごしやすいそんな日々。来月は高校最後の陸上の大会が迫っているそんな日々。何故俺はこのような場所に居るのだろうか。
答えは一つ。不登校女子を説得して登校させる為。
そもそも何故俺がこのようなことをしなければならないのかというと、クラスの学級委員且つ隣の席という理由ただ一つだ。
クラスの学級委員も好き好んでなったわけではない。誰もやりたい人が居なくて、担任に頼まれて、断れなく渋々引き受けただけだ。
つまりは断りきれない優柔不断な自分の責任ではあるのだが、リーダーシップもない名前だけの学級委員だと誰もが承知の筈だ。なのに厄介事はすべて『学級委員』である俺に廻ってくるという………
まぁ、その為の学級委員なのだが、あんまりではなかろうか。
と、愚痴を言っても仕方がない。さっさと目的を遂行して帰宅するのみだ。
インターホンを鳴らす。
………返事はない。というより、人の居る気配がしない。
表札を確認する。確かにこの家であっている筈だ。
………面倒なことになった。話はおろか顔を見ることさえ出来ない。
このままここで待っていてもいつ現れるかも分からない。俺は学校で配られた書類と『また来ます』と書いたメモ書きをファイルに挟み、郵便受けに投函した。
さあ、会えないとわかると踵をさっさと返す。
この問題はどうしようか。……考えるのが面倒だ。あれこれ考えるのは明日にしよう。
今日も1日なんとなく終わってしまった。
明日もこんな平穏な1日を過ごすだろう。
高校三年生にとってとても大切な春、5月。
そんな5月を人生の1通過点として、何の思い入れもなく淡々と過ごしていく事に、最早言い訳すらしなくなった。どうせ俺はこれまでもこれからも平凡な人生を歩んでいくのだから。
……………と、思っていた俺に、未来の俺が言う。
平凡な人生なんて、いつどう終わりを告げるか分からないから心しておけ、と。
最初のコメントを投稿しよう!