第2章

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「仕事、辞めようと思うの。」  彼女から電話があったのは、翌週の夜遅い時間だった。昼間は僕が仕事をしているから、と気遣って、彼女はいつも夜にかけてきた。  ただ、この日はいつもより遅かった気がする。 「辞めちゃうの?」 「うん、なんか、行けなくて。」  あのお茶会の後、シフトは入っていたし、仕事自体はあったんだろうと思う。  でもどうしても、「仕事」に行くために家を出ることができなかったのだそうだ。鞄を持ち、家を出て鍵をかけ、駅までの道のりを歩き、電車に乗る。  それを想像しただけで、身体が冷え切っていく感覚。  今まで出来ていたことができなくなったのは、お茶をしに出かけた時よりも、ずっと心に重くのしかかっていた。 「辞めて、そのあとどうする?」 「しばらく、家から出なくてもいいかなぁ。」 「充電期間ってやつ。」 「わたしもそれやってもいいのかな。」
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