第1章

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 東京都内某日。 「どうして、ダメなの?」  何がダメなのか、その一言では察することができなかった。  たまたま僕たちがいるこのカフェの隣の席にカップルがいて、たまたま口喧嘩をしていて、たまたま横で吹いた風に乗って彼女の呟いた言葉が聞こえてきて。  お隣の席にいたカップルの彼女さんの方が走って出て行ってしまったのを目で追いながら、頭の中は目の前の彼女の言葉がぐるぐると繰り返されていた。  僕の目の前に座っているこの女性は、恋人ではなく、身体の関係もない「普通の」友人だ。「普通の」が強調されているのは、お互いがそういう目で見ないように努力をしなくとも恋愛感情は芽生えない、という前提のもとで成り立つ関係だから。  片方が好意を抱いてしまったらそれは終わりを迎えるのだと分かるほどには、二人ともそれなりに青春時代をそれぞれ過ごしてきていた。学生時代の出来事はそのまま応用され、『男女間では友情は成立しない』ということをお互いに真実だと思い、ならば自分たちは無意識にそういう素振りを見せないようにと、心のどこかでセーブをかけていた。  だからこそ、「どうしてダメなの?」という言葉が発せられた時に、相手のカップルのことなのか、気づかないふりをしている僕のことなのか、キミの過去のことなのか、ただ単発で、それだけしか言わないんじゃ、余計なことはたくさんでてきても、質問の本質を推察しようがなかった。   
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