第1章

4/10
前へ
/30ページ
次へ
「・・・なにが、ダメなの?」 「なにが、とは。」  さっき彼女が言ったこととなんら変わりなく、相手に答えを求めようとするには短すぎる言葉が、僕の口からも発せられてしまった。  ホントは分かってるよ、意地悪で聞いただけ。と彼女は目だけで笑った。 「どうして、今のカップルの彼女さんの方はさ、彼氏さんがしたことがダメだったのかなぁってさ。」  どうやらさっきのカップルの口喧嘩の内容で、彼女が彼氏のなにが気に入らなかったのか、という事を問うていた、ということが今やっと理解できた。  カップルの彼女さんの方が何かしてしまって、男の方が、好きだから許すよ、と言ったことに彼女さんが腹を立てて出て行ってしまったのだ。他人の会話を盗み聞きするのは・・・、と全部は聞いてはいなかったが、聞こえてしまった断片をつなぎ合わせるとだいたいこんな感じだ。 「彼氏さんは『許すよ』って言ってるのに、それを愛されてるわけじゃなくて諦められてるって思ったみたいなんだよ。」  彼女は僕が何も言わなくても、こちらが聞いていなかったから詳しいことはわからない、ということを分かっていて、補足を説明してくれているようだった。気配りというか心配りというか、そういうのを大切に生きてきた彼女が、僕の言いたいことや思考を先回りしてくれるのは僕の彼女の内面的なもので一番好きなところだが、会話をしていたのはお隣さんで、誰かに出歯亀と言われたらフォローする言葉は出てこなさそうだった。 「その彼はため息ついたりとか、めんどくさそうにしていたわけじゃないの?」 「そんな感じじゃなくて、『大丈夫だよ、だって好きだもん』って感じで。」  そこまで言ってくれる彼氏になんの不満があったのか彼女には納得できないようで眉間にうっすらシワが寄っていた。  
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加