第1章

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「好きだから気にしないよっていう意味なのにさ、付き合ってるから『しょうがなく』許すよっていう風に取ったんだよ、彼女さん」 「そんなん、愛されるのが権利だと思ってる女の典型っていうか・・・そんなことで喧嘩しても彼は自分のことが好きだから自分は振られないって思ってるんじゃん、それ。」  ますますむすっとした彼女に、僕は苦笑いしか返せなかった。    かつて彼女は、連絡が一日一回も来る、という理由だけで恋人に振られていた。面倒くさい女は嫌い、という彼だったそうだ。自分が話をしたいときにだけ上手くタイミングを見計らって電話してくる彼女がいい、というトンデモ理論の持ち主なのだと、何度か彼女から聞いたことがあった。    彼女もそれを理解していると自分自身で思っていて、とても気を使っていた。彼の仕事が終わる時間や昼休みなど所謂「空き時間」を見計らっていた、と自負していただけに、それはとてもショックな出来事で。「空き時間」と「彼女を話したい時間」はイコールでは結びつかないのだと知った。最低限の友人しかおらず、狭く深くの関係を築いてきた彼女はそのとき初めて理解したのだ。  まさか恋人同士になってしまったほうが「浅い」付き合いになるとは、思いもしなかったのである。    だからこそ、愛されていて、なおかつそれを無下にするような女の子に、彼女は嫌悪と、ある意味尊敬の念を向けていた。 「なんでそんな風に振る舞えるんだろ。そこまで大切にできる彼氏がすごいのか、そんなんまったく考えたこともない彼女がすごいのか。」 「そういう女の子が好きな男をうまく捕まえてるからじゃないの?」 「・・・わたしに男を見る目がないってことですかね?」 「えっ」
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