第1章

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 どうしようもなく行きたくなくなって自分をひたすら追い詰めて。前にも後ろにも進めなくなるまで頑張り続けていたときは、『それが彼女なんだ』と思っていた。  だが彼女が体調を崩し、そのまま精神的に参ってしまって仕事に行けず部屋から出られなかったとき、それは僕が彼女の外側の都合のいい部分しか見ていなかったのだ、と悟った。  彼女の言うところ接客業とは、感情が仕事で、どんなときでも笑顔以外は選ぶ顔がない、というくらいまでに客も上司も立て、許し、尽くす、という世界だった。  自分から心を病ませに行っているのかと思うくらい日に日に憔悴していく彼女が「頑張るキミが素敵だからもっと頑張れ」なんてまわりから言われて。そんな言葉で、張り詰めてなんとか騙し騙しやってきた心の糸がぷつりと切れて、もう、立てなくなってしまったのだ。  正直向いてないのでは・・・と思うが、完璧を目指す彼女にとっては『得意を伸ばす仕事をする』より『苦手を克服する』仕事に自分から向かっていく傾向があり、毎回最終的にはズタボロで帰ってきて、僕ももう何回もこのお茶会は経験済みだった。      本当はそうなる前に救えたら、とも思うのだが、それはただの僕のエゴだった。  そんなことは望まれていないのだから。       
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