第1章

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「なにケーキにする!?」 「好きなのどうぞ。」 「迷ってるから聞いてるんだよー!」  さっきのむすっとは違う、可愛らしい膨れ方をした彼女に、これで付き合ってないとか嘘だろ、と、僕も心の中でさっきとは違う苦笑いを漏らした。 「いちごがいっぱい乗ってるのとチーズがいっぱい乗ってるので迷ってる。」 「じゃあいつもの?」 「やった!」  いつも二個で迷ったときは半分ずつ。嫌ではないし、むしろ2種類食べられる。お互い何の気なしにしていたから、いつもの、で通じるくらいにはいつもの光景だ。  店員さんに軽く会釈をすると、注文を取りに来てくれた。彼女は自分で頼むが至極苦手で、店員さんに注文をする気はいつも指差し。  これ、しか言わない彼女が接客業をしてお客さんにゴリ押しで商品を勧めいているところを、いったい誰が想像できるだろう。  極度の照れ屋というか、恥ずかしがり屋というか。仕事になればやっとなんとか割り切れるようなことを言っていたが、非常に彼女にとっては神経をすり減らし、毎日必死にまわりから浮かないように仕事をしているのだと、同じ売り場の人や両親は知らない。  話すことも億劫で、最低限のことしか口を開きたくなくなるほどに、外からみた元気で無邪気な彼女す姿とは裏腹に心の中は重く、疲れきっているようだった。  誰にも気づいてもらえない。  彼女は、今でもそう思っているのだろうか。        
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