10人が本棚に入れています
本棚に追加
家の門前で、お母さんと功が話してる。
何してるの?!
てか、なんの話をしてるのお母さん!?
あり得ない光景にパニックになりながら、
ささっと隠れて声を拾う事に集中する。
『ほんと、大きくなったわね功ちゃん。しかも昔と変わらず、カッコいいし。モテるでしょ?』
『いや、全然。俺人見知りだから』
テンションが高い母の声に少し引きながら、小さい功の声を聞き逃すまいと集中する。
『あら、そうなの?勿体無いわねぇ。あ、でも彼女はいるでしょ?』
『 』
ブロォォオオンッッ
1番気になる答えを、勢いよく走りぬける原チャリにかき消された。
数秒、2人の声が聞き取れず、会話の繋がりがわからなくなる。
『功ちゃん面白いわねぇ!
じゃあ今度、ご飯食べにおいで。
朱莉いない日でもいいし!
ね、約束ね!』
何?!
なんで私いなくてもいいの?!
ていうか、母!なんで顔赤らめる!
『うん、ありがとう、おばさん』
『じゃあまたねぇ、お母さんに宜しく!』
ペコッと軽く功が頭を下げて家に入る。
母もそれを見届けてから玄関に入った。
なんだ?
今の。
一体何がどう会話したら、
最近全く関わってなかった幼馴染みを家に誘うことになるんですか、
お母さん。
功も、
お母さんにはあんな風に、普通に喋るんだ。
軽くなった胸の奥が
また重たくなった気がする。
玄関に入って、靴を脱ぐ。
部屋に上がる為の階段は、リビングのドア前を通り抜けた先。
少し隙間が空いてるドアから、
何時ものように、テレビを付けて、鼻歌を歌いながら夕飯の準備をしてる母がチラリと見えた。
そのいつもの姿に機嫌の良さが伺えて、また複雑。
だんだんだんだんっ
私の重い気持ちを現すかのように、階段を登る足音が響く。
下からお母さんの、朱莉?帰ったのー?という声が聞こえた。
すぐ下に降りるし、
返事はしなかった。
乱雑に着替えて、ベッドに寝転がる。
ふと、目線を床にすると、
朝とは全く様子が異なるカーディガンが映る。
雑に置かれたせいで、
このまま放置すると、
明日はシワが気になって着れないだろうなと思い、
仕方なしに、ハンガーにかける。
ちゃんと一目惚れして、気に入って買ったのだから、
寧ろ制服より大事だ。
最初のコメントを投稿しよう!