第1章

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「ようこそ新世界へ」 光も物も何もない常闇の世界。 声だけが閉鎖された空間のように反響し聞こえる。 キョロキョロと辺りを見渡しても声の主は見当たらない。 いや、そもそもキョロキョロと、は自分の感覚であって、視界が動いているかどうかも自分では認識できなかった。 ただただ脳が「自分は辺りを見渡している」と錯覚しているようで、本当は映画か何かのように映像だけが直接脳内に映し出されているのかもしれない。 「ハイハイ、声の主がいないと集中できないかな?」 また呑気な声が聞こえてくる。 反響はしてはいるが、声の主の方向程度はわかった。 体ごとそちらを向こうとしてはたと気がつく。自分の体が無いのだ。 確かに自分の体があるという感覚はある。あるのだが地面を踏みしめる感覚も、手をぎゅっと握りしめるそんな感覚が帰ってこない。自分自身の肉体が肉体を通り抜けているような、例えるならば干渉しあってない歯車のように空回りしているが、間接は適切な範囲で稼働している、と言えばいいか。 それはともかく、声の主の姿だけが見えている。 全身ぴっちりとしたタイツで、失礼な話だが貧相な体をした人はその局部と、控え目な膨らみから女性なんだと辛うじてわかる。 特に目を引かれるのはその髪型か。 ツインテール。いやドリル?形容しがたいその髪型は側頭部から左右に3対、計6本の髪の束がおよそ地面だと思われる付近まで捻れ、交差し伸びている。 風もないのにそれは時折持ち上がり、先端が3本指のロボットアームのように動いてさえ見える。 「じゃあまずは体を慣らして軽い運動をしましょう」 はいいっちに、いっちにと彼女は手拍子をするがどうしたものか。 自分では屈伸をするつもりで膝を曲げてみる。 彼女という目標点ができたお陰かどうやら自分の感覚と動作がマッチしているというのは理解はできたが、やはり違和感はぬぐえない。
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