1 追跡者の誕生

1/12
前へ
/102ページ
次へ

1 追跡者の誕生

「昭人は帰ってるか!」  玄関が開き、珍しく取り乱した父親の声がした。  廊下を歩く音が大きくなり、部屋の扉を開けられる。  藤倉昭人は、眺めていたアルバイト情報誌から目をあげた。  息を切らした父親の肩にネクタイがひっかかっている。  普段は身だしなみを気にする人なのに。 「帰ってるよ、なに? まだ5時じゃん。父さん仕事は?」 「それどころじゃない!」  手首をつかまれた瞬間、抵抗しようかと思ったが、面倒になりそうなのでやめた。  奥の和室に連行され、テーブルごしに向き合うと、何となく正座した。  あら、お帰りなさい、誠さん、と台所から母親の声がする。 「よく聞きなさい、昭人。突然だが、植物という言葉を父さんは使いたくない。植えられた物。そうじゃない、緑には意志があり、思惟がある。驚かないで聞くんだ、昭人」  のんびりエプロンで手をふきながら、母親が和室に入ってきた。 「あ、誠さん? その子、緑の声が聞こえる連城家の事情、もう知ってるわよ」
/102ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加