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1 追跡者の誕生
「昭人は帰ってるか!」
玄関が開き、珍しく取り乱した父親の声がした。
廊下を歩く音が大きくなり、部屋の扉を開けられる。
藤倉昭人は、眺めていたアルバイト情報誌から目をあげた。
息を切らした父親の肩にネクタイがひっかかっている。
普段は身だしなみを気にする人なのに。
「帰ってるよ、なに? まだ5時じゃん。父さん仕事は?」
「それどころじゃない!」
手首をつかまれた瞬間、抵抗しようかと思ったが、面倒になりそうなのでやめた。
奥の和室に連行され、テーブルごしに向き合うと、何となく正座した。
あら、お帰りなさい、誠さん、と台所から母親の声がする。
「よく聞きなさい、昭人。突然だが、植物という言葉を父さんは使いたくない。植えられた物。そうじゃない、緑には意志があり、思惟がある。驚かないで聞くんだ、昭人」
のんびりエプロンで手をふきながら、母親が和室に入ってきた。
「あ、誠さん? その子、緑の声が聞こえる連城家の事情、もう知ってるわよ」
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