プロローグ

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放課後の、音楽室。 微かにもれてくる音色は、優しく、柔らかく、けれど力強さも感じる。 そんな優美な音を奏でているのは、彼しかいない―― 「ハルっ!」 勢いよくドアを開けて名前を呼ぶと、彼はこちらを見て微笑んだ。 音が静かに止む。 「久々の演奏だね」 近くにあった椅子をひっぱり、彼の隣に座る。 「そうだね。しばらく、放課後残れなかったから」 彼――神崎陽斗(かんざきはると)は、少し寂しそうな顔をして言った。 でも、と一瞬で曇った表情は晴れやかになる。 「久々にピアノに触れて、ちょっとテンション上がっちゃった」 にこやかなハルを見ていると、こっちも暖かな気分になる。 「ね、次早く弾いてよ! ハルの音、たくさん聞きたい! ねー、ねー」 しばらくぶりだったから、わたしもハルと同様、テンション上がりっぱなし。 待ちきれなくて、自分でも子どもみたいって思うほど、彼にせがむ。 しかし、ハルはピアノに体を向けようとしなかった。 「ハル?」
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