巣籠(すごも)り

9/10
前へ
/44ページ
次へ
出勤途上、舗道の端で黒猫が毛繕いをしている所に出くわした。 洋一の急ぎ足の足取りに猫は驚いてしまい、一鳴きしてその場を去ろうとする。 洋一は足取りを緩めた。 「ごめんよ。」 猫に言葉は通じていないだろう。 猫は華麗な動態で屋根へスルスルと登り、窓から部屋へと入って行った。 「飼い猫さんだったんだ、ゆっくりしてたのに悪かったね。」 洋一は猫に向けて小さく手を振り、先を急いだ。 「流石に言葉は要らないし、生き物って温かくていいな。」 アカサタの挨拶飛び交う中に、出勤する。 制服に着替え、今日も張り切って行こうと気合いを入れ、厨房に赴く。 カナタではモーニングセットを提供しているので、朝から御客は来る。 洋一は月一度の休日以外日曜日の出勤もしていて、存外に多忙である。 ただ仕事内容はもう慣れた物なので、当たり前に仕事をこなす。 休息中には夜の巣籠りの計画とて、頭の中にはタフや通教や書籍が巡る。 洋一は世間でいう堅実で真面目人間なのだ。 家路を辿れば、そこに巣籠りの世界が色濃く洋一を待ち受ける。 日々は流れた。
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加