巣籠(すごも)り

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商店街のはずれにビーグルというペットショップがある。 洋一は普段にチラホラ覗いていたが、ある日の帰路、そのショップでセキセイインコがセールにかかっていた。 店員に尋ね緑色のメスを一羽、餌と籠と共に買い求めた。 これからの巣籠りの友である。 歩きながら名前を何にしようと考える。 「香(カオリ)にしよう。」 家につく前に名前は求まった。 部屋に入り玄関の鍵を架ける。 「ここが今日からの住まいだよ、大人しくしててね香。」 リビングの良く見通せるポイントに鳥籠を置く。 「俺は洋一だよ。洋一。君はキュートだね、それに良い香りがするよ。 だから香という名前さ、解るかな香。」 生き物の温もりは格別な心の滋養だ。 「今後宜しくね、香。」 初日なので落ち着くまではと、香は籠の中に。 次の日は籠から出してやった。 部屋の中をハタハタとアチコチ飛び回り、最終的に差し出された洋一の手にぎこちなく止まる。 「懐いてくれて嬉しいよ、ささ、香の部屋に御戻り。」 籠に入れてやると大人しく止まり木に止まる。 巣籠する一人と一羽。 独り者のささやかな幸福は、少しだけ改まった。
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