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「綺麗だと思うけど。…俺はその目の色、綺麗だと思う」
思ったことをそのまま口に出して伝えると、少しの沈黙の後桜川は突然立ち止まった。
顔を隠すように不自然に横を向いて、何かを必死に探しているかのように思えた。
ちょうどその時仄かな月明かりが彼の顔に降り注ぎ、見えなかった表情が垣間見える。
夜空を彷彿とさせる瞳からは、ポロポロと涙が零れ出ていた。
「…泣いてる…?」
ポロポロと、彼の瞳からは涙が零れ出していた。
…綺麗だ…
不謹慎にもそんなことを考えてしまう程に、桜川は美しかった。何も繕っていない本当の姿は幻想的で、見る者の心を惹きつけて離さない。
瞳から零れだす星屑は悲しいはずのものなのに、そのあまりの美しさに目を離すことが出来ない…弱さも、脆さも、隠していた部分が本当の彼だったのか。
だから、こんなにも綺麗なのか。
笑っていなくていい。楽しそうにしなくていい。
泣いていいから、苦しんでいいから。
俺はそれを絶対に否定しないから。
だから。
自分を否定するな。
…捨てようと、するな。
俺は彼の手を掴んだ。振り払われないように、しっかりと、けれど優しく。
骨ばった白くて綺麗な手が華奢な俺の手に触れる。
ビクッと彼の体が少し震えたのが分かった。
「…大丈夫、俺はちゃんとこの桜川のことを見てるから」
月明かりが雲に隠されて俺達に影をもたらし、萎れた桜は足元に散らばっていた。
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