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周りを窺ってから、真弓は受話器を手にした。
「はい、お電話かわりましたがね。
K出版社の……あら、なぁんだぁ渡辺さんかぁ。
……うん、お久振り………
あはは、絵一夫人は止して下さいなぁ………
えっ、偉い先生がですか………今日のニ時に………すると九百万じゃね!
………はぃはぃ分かりましたがねぇ………では後ほどに………
もぅ絵一夫人じゃなかてぇ、あははは」
真弓が受話器を置くと、
「何よ、みんなぁ」
課の全員が手を休めて、驚きの表情で覗き見しているのだった。
「じゃ、キミちゃん後を頼むがねぇ」
「はぃ、気を付けて行ってらっしゃい。
あ、先輩、九百万って?」
そんな訳で、真弓は午後から早退して、その足取りは奇妙に軽かった。
えへへへ、これで絵一と仲直りして一緒になれるがね。
絵一があたしに躊躇してプロポーズせんのは、
お金が無いからなんじゃょ。
変なところで意地を張るんじゃから……バカな奴じゃょ、絵一は。
真弓には、二人して喜び抱き合う姿を脳裏に浮かべるのだった。
真弓、しかしお前は本当に、脳天気な女だな。
「うるさいわねぇ。
あたしはね、こう見えても必死なんじゃからね。
そうしないと、身を引いて下さった志津子さんに対して、
申し訳が立たないでしょうにっ」
はいはい、分かりましたよ、主役様。
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