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『あはは……今度は画家のおじさんちねぇ。
画家の大家のおじさん、絵一の絵はどげんですか?
一点三十万じゃがですょ。ねっ、ねぇっ』
『はあっ?
まぁまぁ絵一夫人落ち着いて。さぁ……そこに掛けなさい』
真弓は急くような気持ちで椅子に腰を降ろした。
渡辺はそんなようすを窺いながら立ち上がり、
『では先生、後はよろしくお願い致します。
絵一夫人、それでは後ほど』
と、真弓の肩に軽く手を添えなから、先生に会釈をするとその場から離れた。
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「ねぇ真弓さん……
ほんとうに大丈夫なのですよね……」
四純の優しい言葉は、優しい気持ちとなって、
真弓の気持ちのなかに溶け込んでいくのだった。
▽
真弓と先生は、渡辺と会釈を交わしながら、その背を見送った。
首を元に戻した真弓は、心配気味に尋ねるのだった。
『あのぉ先生、
絵一の絵は……どげんじゃっとですか?」
先生は湯飲みを置くと、表情をしかめながら口を動かし始めた。
『………ん
彼の絵は水準以上でなぁ。
大変な努力をばした成果が見ゆる……。
うん、決して悪くはねぇがのぅ……』
『水準以上じゃですか!
ほらっ、やっぱそうじゃろう先生! ねっ!』
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絵一ぃ……
四純さんとおると気持ちが安らいでいくょ。
少しづつ……絵一のことを忘れていくような気がするがね……。
これも運命の人のチカラなんじゃろか……
『真弓さん僕は……
24日の、イヴの日には必ず帰ってきます……』
しだいに真弓の眼には、
真剣に訴えるそんな四純の目差ししか、見えなくなっていくのだった。
『……えっ、帰って来るぅ?
あたしには意味がよく分からんがね、四純さん……』
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