chapter1 夏の日に

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「起きろ!起きろってば、理玖。お昼ご飯あげないわよ」 うぅ、目が覚めるとそこは見知らぬ風景だった。ほのかに香る潮風、朝とは打って変わったようなジリジリとした暑さ。まだ六月だぞ?温暖化って怖いな。 「じゃなくて、あれ?ここはどこなんだ?」 記憶違いでなければ俺は電車に乗り座ったまま眠っていた。ここは駅ではあるが見覚えは無いし、何より眠ったまま立って降りたりはしないだろう。 「アンタが起きないから無理矢理引きずって降ろしたの。ちゃんと下調べしてるし、この駅で間違いないはずよ」 なんだそれ、と思いながら俺は虚ろな視線を彷徨わせ、駅名を探す。あった、塩見駅だ。よし、合ってる。ようやく頭と身体が覚醒してきたので、ぐぐっと背伸びして固まった身体をほぐす。 「でも無理矢理って…茉里にそんな力あるわけ…。って痛っ」 覚醒とともに痛覚も鋭敏に戻ってきて左足が痛みを訴えていることに気付く。見れば黒いチノパンは埃にまみれ左足に手を当てると感覚的に血が出ていることが分かる。
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