chapter1 夏の日に

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六月のほの暖かい風が頬を撫でる。過ごしやすい温暖な気候に身体は喜び活力に満ちている。さて、ゆっくりしている暇はないか、もうすぐ電車の時間だ。左手の腕時計に目をやると、搭乗する予定の電車の発車時刻に刻一刻と迫っている。 急がなければ…このままでは待ち合わせているあいつが怒るだろう。待ち合わせにはルーズな方だが寝坊を言い訳にするのは少し格好悪い。 寝起きの気だるさに少し嫌気が差しながらもハァ、と溜息をつきショルダーバッグをしっかりと背負い直す。今の俺の表情を周りから見たならば、苦虫を噛み潰したような顔のしかめ方になっているだろうと思い、しっかりとした足取りで地面を蹴った。 俺の名前は秋成理玖。二十一歳で、そこそこ名の通った私立大学に通っている。友人は多くないが、その理由は俺にない、とまでは言い切れないが実際のところ理由の一部は俺が原因ではないと、そう思う。  
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