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「おい、茉里。乗るぞ」
「分かってるわよ、遅れたくせに」
ボーッとしているから声をかけたというのにこの辛辣さ。見事に即答だ。幼馴染みで慣れているとはいえ、心にグサッとくるものがある。こいつとは腐れ縁、と思いたいのだが口にするのは憚られるので奇縁とでもしておこう。
彼女、春宮茉里は父親同士の親交のゆえ出来た数少ない俺の理解者であり、幼い頃からの遊び相手でもあった。それだけならばどれだけ良かった事かと常々思っているのだが、なんとまぁこの女は俺の許嫁でもあるのだ。ふざけたことに当の本人を差し置いて親共だけで決めたというのだから憎たらしい。付け加えて言うならば酒に酔った親父たちがポーカーで適当なものを賭けあった後、賭けるものが手近になくなった茉里の親父さんがなんと娘を差し出したのだ。
俺が高校生の時にその事情を説明された時は眩暈がしたものだが、茉里には伝えていないらしい。もっとも俺は親父さんの亡骸を見たい訳ではないので言うつもりは毛頭ないが。
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