『~小さな約束の終わり~』

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「桂さん、俺は松陰先生を奪った幕府が許せないんですよ」 「っ、稔、麿…」 笑いながらも凍った瞳で吉田に告げられた桂は言葉を詰まらせる。 吉田の憎しみが本物だと分かったからだろう。 だけど――。 ぎりっと拳を握る桂は、それでも吉田に声を掛け続ける。 「~~っ!でも君は、希梨子君が好きなんだろう!彼女はどうするつもりなんだ!」 「……」 「君達は言葉に出して言わないけど確かにお互いが好きあっているだろう!何故、好いた女を置いて逝くなどと言うのだ、稔麿…!」 「………終わりが来た、だけなんです」 「………は?」 荒い口調で吉田に想いをぶつけた桂が、吉田の小さな呟きに疑問の声をあげる。 そんな桂を見て、吉田は今度こそ本当に笑った。 やり残したことなど一つもないようなそんな、笑顔で。 そのあまりにも柔らか過ぎる吉田の笑みを見て固まる桂に、吉田はゆっくりと言葉を紡いでいく。 「桂さん、ありがとうございました。桂さんのお気持ち、しかと受け取りました」 「…と…しまろ」 「確かに俺は彼女を好いています。彼女が他の男に盗られるなんて考えたくもない。これからだって出来ることならばずっと傍にいたいです」 「……何、故だ…なら何故君は……」 「…さっきも言ったように約束の終わりが来たんですよ、…桂さん」 『私を置いて逝くな』と泣いた彼女に、『逝かないよ』と笑ったあの日。 今までずっと忘れたことなどなかった約束の終わりがきたというだけ。 約束を知らない桂が尚も吉田に声を掛けようと口を開くが、吉田はそんな桂に笑い掛けた。 「―――今夜、池田屋で会合を開きます」 ―――きっと、俺の命はそこで尽きる。 吉田が言う言葉に段々と桂の顔が歪んでいく。 「古高が新撰組に捕まったらしいんです。彼を疑うわけではないですが、新撰組は手強い。…きっと池田屋は奇襲を受けるでしょうね」 飄々と簡単に話す吉田に桂が静かに尋ねる。 「……君は、それでも行くんだね…?」 「はい」 「…っ、本当に愚か者だよ…私も…君もっ…」 「……泣かないで下さいよ、桂さん」 「~~、君がそんな風に笑うからだろう…!」 ―――そんな満ち足りた顔で笑うな、馬鹿者…! 桂の言葉に困ったように頬を掻いた吉田は、それでもふわりと微笑んで静かに囁いた。 「―――希梨子を頼みますね、桂さん」
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